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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
がしばらく間をおいてから右手を伸ばすと巻き奉書をとりあげ一種の好奇心にかられたからでもあろうさらさらと一方へ開いて見た。人の名がごじゃごじゃと書いてある、その下へ赤いものがついている――面白くもないようにつぶやいたがそのままポイと投り出して、右手をのばすと地に置いてある綴じ紙を取り上げてめくり出した、「いろいろな図面が描いてあるがこれには用はない」――でまたポイと投り出したが、いまだに酔いが醒めないと見えて再度両手で膝を抱き膝頭の上に顔をあて、すぐにうとうとと眠りにはいった。
で地上には落ち葉のほかはあけられたままの綴じ紙とほぐされたままの巻き奉書が月の光で巨大な蛾の死骸かのように白々と光を浴びてすてられてあった。時々二品がふるえるのは依然として風が吹くからであろう。
何事も知らない泉嘉門はただにいつまでも眠っている。
がまことにこの出来事は重大きわまる出来事であると断言しなければならないだろう。
巻き奉書は徳大寺家が公卿侍青地清左衛門の手から「あのお方」の手に渡すように命じて江戸へ上したもので非常に大切な、かつ危険な意味深い品物といわなければならない。