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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

それにしても金兵衛には不思議でならなかった。「眠りこけている穢ならしい、この老人の膝の前に、置かれてある以上はこの二品は、この老人が所持していたものと解釈してもよさそうだ。この老人は何者なのであろう? どうして持っているのであろう?」

――が、老人を前に据えて、ゆるゆる考えていたのではなくて、瞬間にそのように思ったまでであった。右手に抜き身を持っていたので、金兵衛は左の手をのばすと、すでに持っていた巻き奉書と、一束にして綴じ紙を、ギュッとばかりにひっつかんだ。が、そのとたんに何者かが、金兵衛の左手を打つ者があった。

「あッ」と金兵衛は声を上げたがもうその時には二つの品は、他人の手によって持たれていた。

「賊め!」と叫んで金兵衛の前へ立ち上がったのは泉嘉門であったが、二品はその手に持たれていた。

「これはある人からの預かり物じゃ! 何をなされる! 奪うことはならぬよ!」

金兵衛迫る

一流に秀でた名人には、隙というのはないという。泉嘉門においては、したたかに酔ってはいたけれども、また眠ってはいたけれども、預かり物の二つの品を奪い取られようとした時に、一種の感覚で知ったのでもあろう。