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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
円光などとはいわれなかったが、一種の雰囲気とはいうことができよう。そういう一種の雰囲気を、儒者ふうの老人もまとっていた。で、群衆が自然と分かれて、老人の行く手をひらくようにした。が、儒者ふうの老人のまとっているところの雰囲気は、「本郷の殿様」と呼ばれている武士のまとっているところの雰囲気とは、全然別趣のものであって、穏和と清浄と学者的の真面目さ――そういうものを合わせたような、限りない奥ゆかしい雰囲気であった。「本郷の殿様」に対しては、人は威圧を感ずるのであろう、儒者ふうの老人に対しては、尊敬を払うに相違ない。
往来の片側に大道売卜者が、貧しい店を出していたが、そこまで行くと儒者ふうの老人は、ほんのわずかに顔を向けた。と、編笠から洩れていた髪が、ゆるやかにうねって襞を作って、半白の色が真珠色に光った。が、すぐ前通りに正面を向いて、おおらかとして歩いて行った。
「本郷の殿様」はうなずいたが、「矢柄、矢柄」と声をかけた。
「は」といいながら腰をかがめたのは、三十七、八の供の武士であったが、京都所司代の番士をしていた、ほかならぬ矢柄源兵衛であった。
と、「本郷の殿様」