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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

鴫丸様でございます」

「フーッ」と金兵衛は笑いを吹いた。「鴫丸様の『様』はあるまい。相変わらずのお前さんだ。あの時はたしか自分のことを芸人衆様といっていたっけ」

「へいさようでございます。芸人衆様の鴫丸様が、わたくしなのでございますよ。で、役目といいますれば……」

「わかっているよ、こうなんだろう。『軽い口上を申し上げまして、お上品にお客様衆を笑わせる』途方もなくりっぱな口上いいなんだろう?」

「よくご存知でございますな」こういうと鴫丸は不審しそうに、金兵衛の顔へ押し据えた眼を、パチリパチリとしばたたいたが、「あなた様はどなた様でございますかな?」

「見忘れたかね、無理はない、お前さんと逢って話をしたのは、今年の春の霞の深かった晩で、今は霧の立つ秋の夜だからなあ。半年以上もたっているだろうよ。が、俺は覚えているよ。京都で逢って話をしたはずだ。千本お屋敷のご用地の露路でね。ね、そうだろう思い出すだろうがね」

すると鴫丸の魯鈍そうな眼へ、喜びの色がかすかにさした。

「あッ、さようでございました。そうそう私も覚えております。あの時にはたいそうご親切に、私をお呼び止めくださいまして、いろいろお言葉をくださいましたはずで、まことに有難う存じました」