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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
紋也の姿勢ののびたのは、全身に力を入れたからであって、刀を小脇に抱い込んだのは、襖をあけた瞬間に、部屋の中にいる武士たちの群れが、斬り付けて来ないものでもない、その時抜き合わせて戦おうと構えをつけたがためであった。
背後に置いてある網行燈のかたわらに人が立っていて、紋也の姿を見ていたならば、一旦のばされた紋也の姿勢が、やがて反対に前へ傾き腰から上が暗くなり、頸足ばかりが暗い中で、妙に生白く見えたことと、腰から下が網行燈の光で、ほのかに明るんで見えていて、右の足が前へ踏み出され、左足が背後へ踏み引かれ、踵を上げたその左足の踵が網行燈の光に染まって、際立って赤黄色く見えたことと、左の手がそっとのばされて襖の引き手へ掛けられたこととを、見て取ることができたであろう。そうして次の瞬間、襖が一枚引きあけられ、あけられた隙から燈火の洪水が、一部屋からドッと流れ出て、紋也の姿を光に溺らせ、その紋也をしてのけぞらせたことを見てとることができたであろう。
四人の醜女
講義の行なわれている部屋の襖を、引きあけた紋也は、何を見たか? 燈火の洪水に溺れながら、体をのけぞらせたばかりであった。