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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

辛うじて躄って進むばかりでなく喚きの声を上げるのさえ、今はほとんど絶え絶えであった。それでも四軒並んでいる、空家の前を通り抜けて、目的の屋敷の土塀近くまで来た。それだのに眼の前に見えている、大門まで一気に行けないのは、疲労と衰弱とが極端に、金兵衛を虐んでいるからであろう。

「来るのだ! 姐ご! 大勢来るのだ! 今度こそあぶない! がむしゃらになってる! 代官松めががむしゃらになってる! ……俺らだ! 金兵衛だ! 誰か来てくれ! ……苦しい! ナニ糞! だが苦しい! 水だ! 水をくれ! 舌がつるんだ……足がつるんだ! 歩かれねえ! ……うッ、うッ、うッ」といったかと思うと、ようやく大門の前まで行き、手を伸ばして潜り戸に触れたが、全く気絶をしたと見えて、伸ばした両手の腕の上へ、額を押しあてると動かなくなった。と、この時往来の一方の金兵衛がたどって来た方角から、黒い雲でも湧き出したかのように、一群の人数が現われ出て、こちらをさして寄せて来た。代官松の一味であった。しかしこの時潜り戸の内側で、二人の女の話し声がした。

「お粂様、どちらへ参られます?」

「はい、妾、金兵衛殿を探しに……鈴江様、どちらへ参られます?」