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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
――で、また鈴江は一方へよろけた。
「恐ろしいことだ! 恐ろしいことだ!」
木立ちと反対の方角には、幾棟かに別れて建っている、宏大な屋敷の建物が、黒くおごそかに見えていたが、突き出されてできている一軒の部屋から華やかな燈火の橙黄色の光が、雨戸を閉ててない障子一面に、栄えて鈴江の眼に映った。講義の声がまれまれに聞こえる。
その部屋とわずかな距離をおいて、これも突き出された部屋があったが、内の燈火が暗いと見えて、障子は華やかでも明るくもなかった。その部屋になかば無意識のままに、寝ているはずの紋也のことを、チラリと鈴江は考えたが、お粂様が看護をしていてくださる、だから心配はなさそうである。それに兄上は時さえ経てば、きっと意識を取り返し、そうして意識をさえ取り返したならば、後は養生一つだけで、昔通りに健康になられる――と、確信されているので、鈴江にはたいした不安ではなかった。小次郎の安危へ心を移した。
「家を出かけて行く時から、小次郎のようすは寂しそうだったよ。兄上や妾の行動について、優しい弱々しい清浄な、小次郎らしい心持ちから、いろいろと心配をしてくれたが、心配をされた私たちは、危難を受けは受けたものの、こうやって二人ながら生きていて、同じこの屋敷におちついているのに、心配をしてくれた小次郎のほうが、行方の知れない