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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
屋敷の人々がこの空家を通って、去って行く時に小次郎を見付けて、連れて立ち去ったものであろう。では小次郎が血をおさえていた、図面の描いてあった綴じ紙も、屋敷の人に発見されて、持ちさられたものと見てよかろう。空家を見終わった美作たちは、ふたたび屋敷へ引き返して、二階のほうへ上がって行った。
と、広々とした部屋があって、一方の壁に巨大な棚が、からっぽのままで据えてあった。しかしながらここには様々のものが――精巧をきわめた武器などの模型が――置かれてあったはずである。なくなっているのはどうしたのであろう?
立ち去る時に屋敷の人々が、いっさい運んで行ったのであろう。さて、こうして美作たちが屋敷を見まわっている時に、一人の大男がお茶の水あたりを、
「お妻太夫さん、お妻太夫さん」と、呼びながら淋しそうにさまよっていた。鴫丸以外の誰でもなかった。
行く手に小橋がかかっていて、そこまで行った時鴫丸は、疲労と眠気とに襲われたからか、欄干へよってうとうとと眠った。と、女の声がした。
「竹之助様をご存知ではありますまいか?」
突然に声かけられたので、驚いて鴫丸は眼をさましたが、無心に持っていた巻き奉書を、この時川の中へ落としてしまった。