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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
その日のことを回想するように、こういうお粂は感慨深そうに、張りのある大型の眼を細めた。
「ところがどうだろう、その巻き奉書を、お狂言師のような老人があの晩綴じ紙と一緒くたにしてお屋敷の前でひろげていたではないか」
お粂の横につつましやかに、すわっていた金兵衛がこのようにいった。
「取り返そうと手を尽くしてみたが、とうとう持って逃げられてしまった。……思い出してもムカムカする。あの晩は俺たちには悪い晩だった。……水戸様石置き場の空屋敷のあの惨酷な焼き討ちから、お狂言師の老人に、なぶられたあげくに逃げられたことから、美作や兵馬や代官松めに、屋敷を囲まれて襲われたことから……そうして屋敷から引き上げたことから。……思い出してもムカムカする」――で金兵衛はジリジリしたようすで、小鬢のあたりを指で掻いた。しかし老儒者は微笑しながらいった。
「あれは予定の引き上げだったのだよ。ここの屋敷もめざされております、水戸様のお下屋敷へお移りなされと、勧められていたおりだったのだから。……むしろよい晩だったといったほうがいい。探していた綴じ紙を引き上げの際に、手に入れることができたのだからな」