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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

かなわぬまでも切り込んで。……」

「お嬢様!」とそれを聞くと下僕の小平が、まずたくましい顔の上へ、敵がい心をムラムラとだした。

「お咲殿、そなたも守り刀で!」

「あい!」とお咲も懐剣を握った。

「どんな武士か知らないがナーニ! ナーニ! ナーニ! ナーニ!」小平は傍へ引きつけておいた、道中差しを取りあげたが、「ご主人様もお守りくださりょう。三人かかって討って取り、かなわぬ時は切り死にするばかりだ」――で、ヌッと突っ立った。

「ではお嬢様」

「小平や頼むよ」

「私も命限り根限り!」

――で、三人は勢い込んで、部屋から出ると廊下づたいに、源兵衛と兵馬のこもっている、部屋のほうへ足音を忍んで進んだ。

はたして敵討ちはできるであろうか。討つほうはかよわい娘であり、助太刀をするのは下僕と乳母だ。武道には未熟の連中である。しかるに一方討たれるほうは、人を殺したことのある、兇悪の矢柄源兵衛である。のみならず源兵衛には剣鬼のような、桃ノ井兵馬がついている。

この敵討ちはあぶないあぶない!

そういう気分がその一郭で、醸されているということを、なんで紋也が鈴江が知ろう。

二人は五、六間へだたった、一間の中に向かい合って、夕飯の終えた後の時間を、寝もせず静かに話していた。