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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
「それで話はわかった、しかし今は早水さんがなにかおれに用事があるそうだ、おまえは暫く梅田氏のお相手をしていて呉れ」そう云って東湖は立ち、「早水さん此方へおいでなさい」と秀之進を促して客間を出た。
梅田氏という姓を聞いて、秀之進は、どこかで会ったことのある人物だということを思いだした。若狭の人で梅田なにがし……高松の左近さまの屋形で会ったのかも知れぬ。たしか慷慨家として名のある人だった。
「お坐りなさい」書斎とみえるいちばん奥の部屋へ案内すると、東湖は無雑作に座を示しながら、相対して坐った、「おたずねの御用件は」
「御披見ねがいます」
こう云って秀之進は校川宗兵衛からの添書をさしだした、東湖はざっと眼をとおして、「そうですか、それでわたしに頼むというのはなんです」
「老公に拝謁がねがいたいと存じまして」
「あんたが直々にですか」
「処士の身でまことに僭越ですけれども、左近頼該から言上すべき旨を申付かってまいったのです、特に先生のおとりなしをたのむよう御迷惑ながら押してという事でお願いにあがりました」
東湖はしばらく黙っていた。肉付のいい顔の、太い眉をぐいとしかめ、厚い唇をひきむすんだまま、やや暫くのあいだじっとなにか考えていたが、やがてふと眼をあけると、「それはだめでしょう」