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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

左右の家は広小路とか柳橋などと縁のつながる芸妓、芸人、音曲の師匠、三味線屋などの住人が多く、また俳諧師とか作者なども二三いた。俳諧師といっても、実は幇間に類する者だったり、作者とは表向きで、なんとなく芝居街へくっついて、時たま馴れ合いの評判記を書くとか、総見札を売るとか、またはあまり世間に公表のできない本を書いて武家屋敷へ持ち込むとかいう、かんばしからぬ人間のほうが多かった。竹亭寒笑もむろんそういう仲間のひとりだったが、前の年の冬に書き下ろした「艶色恋の手車」という人情本が版行されると、書肆も作者もまったく予想しない売れゆきで、たびたび巻を重ねたうえ、つぎつぎと著作刊行のはなしが持ちこまれ、現在では流行作家として、皀莢小路の洒落れた家を一軒買い、我が世の春とばかりにおさまっている。……その寒竹先生のすじ向いに、油竹を左右に植えた敷石道でちょっと奥へひっこんだひと棟があった。もと大名出入りの植木屋の隠居が、自分で建てて住んでいたという、木口もいいし隅々に神経のゆきとどいた、そして離れの四帖半をいれて五間ある間どりもなかなか凝った造りの家だった。また植木屋だけに、狭い庭に苔付きの風雅な石三つを伏せ、女竹のひと叢、石の根締めに石菖、古木の梅におもとという配置もしっとりとおちついていた。