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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「いいかげんにおしよばかばかしい、おまえさんの趣向に西鶴を担ぎだすことはないじゃないか」

「だって例えをひかなくちゃあ理会がつかない」

「例えにひくならもっと似合った者をひくがいいのさ、跛が韋駄天を褒める様なのはみっともないよ」

「そういう口だからとかく人に疎まれる」寒笑は衒れたのをごまかして、「ところで閑話休題、つまりゆうべ書きあがらなかったもんだから今日また和田平(書肆)の番頭がやって来る、つかまるとうるさいんで逃げて来たというわけなんだ、少しお邪魔をさして頂きますよ柿崎のお嬢さん」

「流行作者は辛いね」

梅八の皮肉はもちろん通じない。寒笑は出された茶を啜りながらぐいと乗り出した。

「ときにお嬢さん、このあいだ贈呈したあたしの作、読んで下さいましたか」

「……はあ」

「あたしがお止め申したよ」梅八がまたぴしりとやった、

「冗談じゃないお武家のお嬢さまにあんなものをおみせするやつがあるかい、若旦那に知れたらお前さんお出入りを止められるよ」

「へえ――あたしの作はお武家のお嬢さんには悪うございますかね」

「お武家には限らないさ、まっとうな家なら読ませられるものじゃあないよ」