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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「折衝の上ではあるが」と宗兵衛はつづけた、「近頃の亀阜荘の噂ではその要もないのではないかと考える、そこもとはこんどの帰国で左近君にお眼どおりされたか」

「はい、両三度ほど……」

「やはり日蓮宗で夜も日もなしという御容子だったか」

「そこまでは、よく存じませんでしたが」

ふむと宗兵衛は鼻を鳴らせた。大助の日頃を知っているので、亀阜荘のありさまを口にできないのだと察した。

「そればかりではない、いまさら水戸へ使者を出して、本枝周旋をあそばすような、手ぬるい思召しではどうにもならぬ」

「木曽駒のお話ですが」大助は話を戻した、「牧場のあてはお有りですか」

「上松の在と黒川、宮之越、この三カ所の牧場に状がつけてある、精しくは是れに書いて来たから」

そう云って一綴の書き物をとりだした。大助は手にとってひと通り眼をとおした。

「手形が遣わしてあるのですな」

「二百金だけ遣わしてある」

「……承知いたしました、手順をつけましてなるべく早く人をやると致しましょう」

「それからもう一つ」

宗兵衛が云いかけたとき、飲み物を持って藤尾がはいって来た。

藤尾の持って来たのはギヤマンの洋杯に注いだ、濃い緑色をした飲み物だった。