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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「老公への拝謁はどうしてもかないますまいか」

食事を終ってからしばらくして秀之進がそう訊いた。東湖はまだ盃をはなさずにいた。

「諦めるほうが賢いだろう、あんたの使者の立場にはお気のどくだが、本枝和解などはもう末の末だ、時はぐんぐん動いている、ほかにもっと重大な問題がある筈だよ」

「さればこそ本枝和解が大切なのだと存じますが」

「さればこそとは」

「さきほど先生の仰せに、まず国論民心の統一というお言葉がございました、さし迫っている時代の転換が重大であればあるだけ、国内はひとつに纒まらなければならぬ、『日本中の心が天皇親政の一点に集中した時』と仰せられた、その集中のためには小怨私憤を去って大きく纒まらなくてはならぬと思います、高松はそれを望んでいるのです」

「うまく揚げ足をとったな」東湖はにっと苦笑した、「たしかに、それは一理ある、だが早水さん、その話はあんたのもので高松全藩のものじゃない、そうだろう」

「しかしわたくしは現にこうして左近頼該さまの使者としてまいっているのです」

「あんたは藩士じゃない」思いもかけぬところを東湖は突いた、秀之進は眼をみはった、「これはむろん使者としてのあんたの価値を指すのではない、高松の考え方がどこにあるかを云うのだ、もし本当に和解を計ることが必要であるなら、こんな密使の形式をとることはない