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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

そこは四帖半ほどの小部屋で、廊下に面したほうに障子、(明けたままだった)うしろに襖があり左右は壁だった。明けてある障子の間から、廊下を越して庭が見える。ほんのひとまたぎの狭さではあるが、古いぐみが一本あって、朱色に熟れた実がびっしりと生っていた。秀之進はそのぐみの枝を見たとき、遠い遠いむかし別れた幼な友達に再会したような、切ないほどの懐かしさにぎゅっと胸をしめつけられた。……ぐみの木の脇には四方仏のつくばいがある。どうしてそんなところにつくばいなどがあるのかわからないが、ずいぶん古いものらしく、角々がまるくなり彫面もはっきりしないほど摩滅している感じが、これもどこか記憶の隅に印象があるように思えた。

取次ぎに出た若い家士は、なんども廊下を往復した。秀之進はじっと待っていた。……廊下の右に三つほど部屋が続いているらしい。そのはずれの部屋と思えるあたりから、客たちとあるじの話し声がさかんに聞えてくる。あるじ宗兵衛だろう、少しかすれた、力のある老人の声が最も大きく、しかも大抵の話題を独り占めにして、熱心な、浮き浮きしてさえいるような調子で、論じたてたり、笑ったりしている。