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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
そのあいだに運ばれて来た洗い鯉や、江戸には珍しい胡桃豆腐や、焼鮒や、鳥の酒煎りなと、多くはつまに凝った皿の数も、ほとんど心にとめるいとまのないほど、梅八はおのれの話に溺れていた。
「ではいまはその太橋という者の世話になっておるのだな」
客はしずかに盃を嘗めながら、ときどきさりげない質問をした。
「ええ、讃岐のものもちの若旦那で昌平坂の御学問所へもいらしった学問のある方なんです、気性のさっぱりした、若い人には珍しいほど人情の厚い方ですよ」
「いちど会ってみたいものだ」
「きっとお話が合うと思います」
「どうだろう」客は興を唆られたというように、「二三日うちに三人で会う手順をつけてくれるか」
「さあそれは、……なんでも木曽から大阪のお店へまわる用があるとかで二三日うちに出立なさるということでしたから」
「木曽から大阪の店へ……」
「帰っていらしってからなら、きっとお会わせ申しますけれど」
「それは急ぎの用なのか」
「ええよくは知りませんが……」
梅八が言葉をつづけようとしたとき、庭さきの萩の茂みを踏みちらして、とつぜん三人の武士がとびだして来た。
三
客のあっという声で、梅八がふりかえるより早く、萩の茂みからとびだした三人の武士はものも云わずに踏みこんで来た。