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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

まえには美男という感じがまず眼についた。しかしとらえどころのない軽侮の表情や、かたく心の蓋を閉じて韜晦するさまが、なんともいえぬ虚無感を人に与えたものである。それが今日はなかった。眉もはっきりと力をもち、眸子もよく光りを湛えている。まえには韜晦していたものが、今日まぎれもなく前へのしだして来ている。――そうだ、たしかにそこが変ったんだ。大助はむしろ驚きをもって秀之進を見まもった。

「先日お国許から松崎さんが出府して来ましたよ、それで心配していたんだが、例の刺客はどうしました、十日ばかりまえにお屋敷へ戻ったそうだが、結局会わずに済んだわけですが、松崎さんはあなたなら大丈夫、たいていの者に討たれる気遣いはないと云っていたが」

「松崎はなんのために、出府して来たんだ」

秀之進は箸を措いた。

「ようやくお言葉がさがったわけですな」大助は団扇を止めて、「こんど讃岐守さまのお国入りに当って、左近さまから旅中の御持薬の贈り物があったんです、その使者に選まれておいでなすったんですが、おもな用向きはこちらの情勢をみるためでしょう」

「もう帰ったのか」

「まだいらっしゃる筈ですが、それについて少し困ったことが出来ましてね、……しかし話をするには此処は暑すぎる、どうですか、済んだのなら、わたしの家へいきませんか」