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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
「少しは天道さまを怖れるものだよ」云い合いながら支度をして、「では留守をたのみますよ」
と梅八は藤尾とつれだって銭湯へ出ていった。路次を表へぬける馬喰町の通りへ出たところで、向うから来る柳通助に会った。
「おやお暑うございます」
「お揃いでどこへゆく」
「お風呂へまいるところですが、貴方さまはどちらへ」
「おまえのところへ来たのだが」
「では戻りましょう、どうぞ」
「済まんな、ちょっと貰ってゆきたい物があるので……」
「御遠慮には及びません、ひと跨ぎですから、藤尾さんはどうぞお先へいらしって」
「いいえ、わたくしも」
それではと、梅八は先に立って皀莢小路へ戻った。油竹を左右に植えた敷石伝いに、木戸をあけて格子へ手をかけたが、動かなかった。力をいれて引くとかちりと※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)し錠の音がする、梅八は首を捻って、「寒笑さん、ちょっと」と声をかけた、「ちょっと開けておくれな、鍵なんぞおろしてどうしたのさ」
返辞がなくて、奥の方にあわただしく物を掻き捜すけはいがした。梅八はとっさに台所口のほうへまわり、腰高障子をひきあけて中へとびこんだが、あっといって劈くように叫んだ。