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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

秀之進は平然と天床を見あげた、「……社会状態も同じようだ、歴史の転変は少なくなかったが、概して最大多数の国民とは無関係なところで行われた、平氏が天下を取ろうと、源氏が政権を握ろうと、農夫町民に及ぼす影響はいつも極めて些少だった、云ってみれば、平氏になっても衣食住が豊かになる訳ではないし、源氏になったから飢えるということもない、合戦は常に武士と武士との問題だし、城郭の攻防になれば土着の民は立退いてしまう、戦火が収まれば帰って来てああこんどは源氏の大将かといった具合なんだ、……いいか、この二つのうえに豊富な自然の美がある、春の花、秋の紅葉、雪見や、枯野や、螢狩り、時雨、霧や霞、四季それぞれの美しい変化、山なみの幽遠なすがた、水の清さ、これらは貧富の差別なく誰にでも観賞することができる、夏の暑さも冬の寒気も、木と泥と竹と紙で造った簡易な住居で充分に凌げる、……こういう経済地理と政治条件の下では、どうしても宗教に救いを求めなければならないという状態は有り得ないんだ」

「然し実際にはあれだけ悲惨な迫害史を遺した切支丹もあるし、現在だって仏壇のない家や、寺院のない村はないでしょう」