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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

秀之進もこう云いながら湯槽へはいって来た、「……この不幸なくにがらに絶えず中心となって在すのが天皇だ、誰が覇権を握ろうと、誰が政治を執ろうと、天皇だけはそれに関わりなく、恒に国民ぜんたいの中心に在す、そして天皇と我われのあいだにはなんらの契約もない、その在すがままで至上の中心なんだ、歴史の語るとおり、権力の争奪には天皇を擁することが正義の肯定になった、だから在すことの尊さと純粋さが高ければ高いほど、これをあやまるときは禍いも決定的になる、……このまえ云った根本論はそこなんだ、王政復古は徳川幕府の倒壊で終るのじゃあない、幕府に代る勢力が天皇を擁することを打破し、国民ぜんたいの中心として在す状態まで、持ってゆかなくてはならないんだ」

風呂から上って昼食をとった。……岩魚の煮びたしに鮎の塩焼、それはいいが箸休めの小皿にばったの佃煮があったのには驚いた。蝗だろうと云ったが、女中は「おんめです」と笑っていた。詰りばったかと訊くと「そうでしょう」という。秀之進は苦い顔をしてそっぽを向き、大助も箸をつけようとしたがいけなかった。

「この辺ではみんな喰べますがねえ」