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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
八十吉はけんめいに云った。
「いや、よしたまえ」無遠慮に、八十吉が続けようとする言葉をさえぎって、秀之進はきっぱりと云った、「君の悩みには同情するが、それは自分で乗り越えなければならぬことだ、時代そのものが悩み苦しんでいる、われわれはその苦しみ悩みの中にいるんだ、それを自分の力で克服したところに道がある……君が、少なくともおれを斬れなくなった変化にぶっつかっていることだけでも、無意味じゃない、われわれにはひじょうな努力と根気を以てしなければ、切捨てることのできない多くのものがある、それを切捨て、そこから新しい道へ踏みだすことは、普通のことでは不可能だ、同時にその不可能を可能にすることが……われわれの唯一の生きる道だ、江戸へ帰りたまえ、腫物は根から剔抉しなければ治りゃしないぞ」
新島八十吉は黙って頭を垂れてしまった。
秀之進には今はじめてわかる。江戸から此処へ来るまで、執拗にあとをつけて来たかれ、斬るつもりなら機会はいくらもあったのに、或るときはわざわざその機会を与えてやったのに、手を束ねて動こうとしなかった……つまり新島は新島なりに、自分の思考を遮るものにぶっつかっていたのだ。