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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
はわかったろう、……解決は二つある、此処から江戸へ戻るか、それとも」
秀之進がそこまで云ったとき、右の端にいた髭が「貰った」と叫ぶなり抜打ちを仕掛けて来た。斬るというより気を奪うという感じの打である、秀之進は僅かに躰をひらいただけであるが、五人は野蛮な叫びをあげながら抜きつれて左右を固めた。彼は柄に手をかけたまますばやく相手の動作を見やった、いま仕掛けた一人が手ごわいように思える、あとの四人はたいしたことはないようだ。
――この髭を倒せばいい。
そう思って、かれはじりっと躰をうしろへひいた。吹きわたる風が、この人々の袴の裾をひるがえし、さやさやと夏草の葉ずれの音をたてていた。
えいっと秀之進の言葉を叩っ切るように、右の端から抜き打ちを掛けた者があった。あの髭の濃い眼のするどい男だった。秀之進はその切尖をひきはなして、さっと道から草原へとびしさった。
「いまのは水戸藩士だな」秀之進は刀の柄に手をかけて、「常陸びとの骨は硬いという、おれにはこれが二度めの見参だ」
甲冑
一
讃岐のくに高松城の南西にあたる宮脇村の亀阜荘では、その朝はやくから表門をひらき、清砂を掃いたり水手桶を積んだりして、客を迎える支度をととのえていた。