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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)んではいかん、讃岐守どのはこの国のあるじだ、警護を配るのは当然のことではないか。そう云ってきびしく妄動を禁じたので、あやうく事は起こらずに済んだ。
頼胤はそれから半刻ほどして到着した。供まわり二十人ほどの微行である、左近は式台まで出迎え、そこからつれだって客殿へはいった。左近頼該は四十三、頼胤は四十一歳、どちらかというと弟のほうが老けてみえるのは、幕府の枢機に与って、激しい時代の潮流と闘っているためだろうか。左近はゆったりと肉の厚いからだつきで、唇のあたりにたえず穏やかな微笑を湛えている、ぜんたいに田園の隠士という風格があった。
「貞どのはお痩せなすったな」
左近は頼胤の幼な名貞五郎を呼んでそう云った。挨拶が済むとすぐのことである、頼胤は兄のうちとけた調子に心をうごかされたようすで、手を頬にやりながら苦笑した。
「不敏の身で人がましい大役に奔走しているからでございましょう、貞五郎などはもう隠居をすべきときでございます」
「みなそれぞれに骨の折れる時勢だから、御苦労はつねづねお察し申している、……まして貞どのにはこの左近などという邪魔者があるので、なにかとお心をいためることが多いであろう」