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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「……それは、わたしから柿崎嬢にはなしてはみるが……」

「その必要はない、おれが自分で云うよ」

些かも躊躇のない、むしろ確信ありといいたげな言葉なので、大助はなにも云うことができず、ふたたび机に向って書き物をはじめる秀之進の高い額を、しばらくまじまじとみつめるばかりだった。

書庫へ籠って五日めに、頼該に呈出する覚書ができあがった。そこで大助から一応その旨を用人まで通じておき、夜になるのを待ってそっと亀阜荘へ伺候した。頼該は秀之進を書斎で引見した。むろん扈従の者は遠ざけた二人きりで、燭台の光りが、いかにも秋の静夜らしく、書院窓から忍び入る微風に、ときおりはたはたと揺れていた。

「よく戻ったな、健固でなによりだった」左近は五つ月ぶりで逢う秀之進の顔をしげしげとみまもりながら、「ゆるす、近う近う」と座をさして示した。

使命が不調に終ったことは、校川宗兵衛からもう言上してある筈だ。秀之進は自分の口からはなにも申述べるつもりはなく、「仔細は精しくこれに記してありますから」といって持って来た覚書をさしだした。

「あとでみよう」

左近は秀之進の気持を察したので、覚書を受け取ると、しいて不調の理由を問おうとはせず、旅中の話、会った人々の印象などをたずねる。