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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「たいそうお急ぎのようだが」

「急ぎですとも、御存じの大峰庄蔵と矢田部源七郎が当お屋敷内へ逃げこんでいるんです」

「大峰と矢田部……」

「結城党の奸物です、寅寿ふくしんの者です」

「……そんなことはあるまい」

「いやたしかですよ」武田魁介と名乗る男は怒鳴りつけるように云った、「かれらは水戸に押籠めになっていたのですが、二十日ほど前に脱走して寅寿のふところへ隠れたのです、それから寅寿の手でこちらの屋敷へ匿まわれたとたしかに見届けてあるんです、校川さん、ひとつすぐに引渡して貰えるようたのみます」

「事実とすると捨て置けないが」

「とにかくすぐその手配をして下さい、気付かれてまた行方をくらまされては困る、おねがいです」

「よろしい当ってみましょう」

支度をしながら秀之進はこれだけの問答を聞いた……結城寅寿というのは水戸家の老臣である。弘化元年、藩主斉昭が幕府の譴責にあって隠居謹慎を命ぜられ、その帷幄の士たる藤田彪(東湖)、戸田忠敞ら一派が罪せられた。これを甲辰の藩難というが、寅寿は水戸家の執政でありながら老中大奥と結んで暗に斉昭隠居の事を企んだ巨魁であった。

――まだ事は納まっていないのだな。