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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

をしましょう」

娘は案外すなおに頷いた。

「申上げます、わたくしお話し申したいと存じておりましたのですから、……でもそれはお力に頼りたいからではございません、お情けに縋りたいからでもございません、ただ申上げたい、聞いて頂きたいからでございます」

「結構です、聞かして下さい」

娘は少し膝をすすめ、行燈をひき寄せて火を細くした。身の上を話そうとしてまず燈火を細くする娘らしい羞じらいと神経のこまかさが感じられて大助は何やらほのぼのとした気持にうたれるのだった。

「わたくしは伊予のくに吉田藩の生れでございます」

「伊予、するとおなじ四国だったのですね」

「兄は柿崎兵馬と申しました」

藤尾はしずかに語りだした。

蕭々たる雨の音と、川の瀬波の音とが夜を押し包んでいた。多からぬ客たちは講釈でも聞きにいったか、それとも雨に足をとめられて寝てしまったか、宵のうちだというのに宿はひっそりとして、人のけはいも感じられぬほどしずまりかえっていた。

「柿崎の家は吉田藩でも筋目の正しいものだと聞きました、父は伊吉右衛門と申し、御届方というお役を勤めておりましたが、七年まえに亡くなり、兄が十九歳でお役名だけ継ぎました」