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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
兵馬さんに罪があると思いますか」
藤尾はそっと眼を伏せた。大助はすかさず続けて云った。
「むしろ貴女には兄上の志を継ぐべき責任さえあると思いますがね、いや、……どっちにしろ今夜はもう寝ましょう、明日のことは明日です、わたしが総てうまくやりますよ」
雨の音は絶え間もない。峡間の夜はすっかり更けていた。
大助はそれほど心配はしていなかった。
宿の帳場から訊ねにきたのが吉田藩の討手であるとしても、藤尾をそれと確認してのことでなく、四国の者で男女づれというところに眼をつけたのだと思われる。おそらくまだ疑いが解けないで見張っているだろうが、明日になって自分の姿を見れば間違いだということがわかるに違いない。
――そうだ、要慎のために藤尾を町人風の恰好にするほうがいい。
そう思いながら、ふと大助は秀之進にどこからか見まもられているような気がしてはっとなった。
――どうしてそんなにその娘のために苦労するんだ。
秀之進のそう云う声が聞えるようにさえ思われた。あの意地の悪いほど無関心な、あらゆるものに超越した、蔑むような眼つきがまざまざと宙にうかぶ。
――なんにでも手を出す、誰にでも親切を押しつける、それがおまえの悪い癖だ、世の中のことはそう単純ではない、人間はそれぞれの運命をもっている、他人の僅かな力ではそれを動かすことは