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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「人はみかけによらんなあ、貴公にこれほどの心得があろうとは思わなかった、こうなるとなお姓名を聞きたくなる、事情があるなら他言はしないが、名乗らんか」

「不作法ですが勘弁して下さい」もうはたし合は終ったとみたので、秀之進は大剣にぬぐいをかけて鞘におさめた、「偽名を名乗るのはわけのないことですが、それはかえって失礼に当るし、どうかこのまま別れさせて下さい」

「……じゃあしようがない」久木はぷっと外向き、「おいみんな、いこう」と叫ぶと、三人の伴れを促してさっさと砂丘を越えていってしまった。

――なるほど、あれが水戸っぽというものか。

秀之進は砂上へ置いたふりわけ荷と笠を拾いながら、去ってゆく四人の姿を見送った。さっき久木と加地との議論を聞いていたときにも、内容の当否はべつにして、その態度のしんけんさには心を惹かれた。……高松でも、左近頼該の周囲には、志士論客が集まって来て絶えず議論がたたかわされる。けれども多くは抽象的な、論争のための論争になってしまう。すぐに激昂して殴りあいになる。なにかというと「結論」を求めあい、条理だって真実をつきとめようとする努力がない。