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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

おせんの九つの年に母が亡くなった。そして間もなくお祖父さんが来ていっしょに住むようになった、源六は父にとって実の親だったが、気性が合わないため別居し、神田のほうで研屋をしながらずっと独りで暮していた。それが茂七が妻に死なれ、おせんを抱えて惘然としているのをみて、自分からすすんでいっしょになったのである。それまでにも菓子や花簪などを持っては折おり訪ねて来たので、おせんはよく知ってもいたし母の亡くなったあとの淋しいときだったから、すぐ源六に馴ついて、夜なども抱かって寝るようになった。……幸太と庄吉とはその前後から知り合ったのだ、幸太は巳之吉の遠い親類すじに当り、十三の春から、杉田屋へ徒弟にはいった。口のきき方もすることも乱暴な、ひどくはしっこい少年で、来る早々から職人たちと達者に口喧嘩などするという風だった。庄吉は幸太より半年ほどあとから来た、不仕合せな身の上で、両親もきょうだいもなく、品川で漁師をしている遠縁の者が親元になっていた。彼は幸太とは反対にごくおとなしい性分で、おない年とはみえないほど背丈も低く、ひよわそうな女の子のような感じだった。母が亡くなってからはおせんはあまり杉田屋へゆかなくなった。