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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
これだけのことを心をこめて云った。
――おたかは聞いているうちに感動したようすで、しかしその感動をうち消そうと、気の毒なほどうろうろするのがみえた。まちがいなく彼女は迷いだしていた。こうと思いきめていながらおせんの言葉につよくひきつけられ、気持の崩れだすのを防ぎかねていた。
「いいわ、じゃ云うわ、おせんちゃん」
やがておたかはこう云った、そしてすばやくあたりを見まわし、手招きをして家の中へはいった。――六帖に三帖の狭い住居で、どこもかしこもとりちらしたなかに、枕屏風を立てて和助が寝かされていた。おたかはその枕許へそっと犬張子を置き、おせんと差向いに坐って火鉢の埋み火を掻きおこした。
「あたしがよそよそしくしたのは、おせんちゃんがなにもあたしたちに不義理をしたからってわけじゃないのよ」おたかはこう話しだした、「――正直に云うと庄吉さんのためなの」
「庄さんのためって、だって庄さんが」
「いつだっけかしら、そう、あの人があんたと置場で逢って話をしたわね、あれから十日ばかり経ってだわ、うちのひとが庄吉さんを呼んで此処でお酒をいっしょに飲んだの、そのときあの人はあんたのことを話しだしたのよ、杉田屋にいたじぶんのことから大阪へゆくようになったわけ、そのときおせんちゃんと約束をしたことも云ったわ、固く固く約束したんだって、