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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

……だがいずれにしても、幸太と比べて庄吉のほうが好きだと考えたことなどはなかった、幸太のてきぱきした無遠慮さ、自分を信じきった強い性格はにくいと思っても不愉快ではない。庄吉の控えめなおとなしさ、いつもじっとなにかをがまんしているというようなところはあわれでもあり心を惹かれる、二人とも幼な馴染で、どちらにも違った意味の近しさ親しさをもっていたのだ。

「けれどもうそれもおしまいなんだわ」おせんはあまいようなうら悲しい気持でそう呟く、「……庄さんはあたしの待っていることを信じて上方へいったのだもの、違った人情と雨かぜのなかで、あたしと二人のために苦労して稼いで来るのだもの、あたしだって庄さんだけを頼りに待っていなければならないわ、どんなことがあっても」

おせんは自分の心も感情も、庄吉のことでいっぱいだと思う。するとそれがさらに彼のうえを思うさそいとなり、時には胸の切なくなるようなことさえあった。――もう大阪へ着いた頃であろう。宿はきまったかしらん。うまく稼ぎ場の口がみつかるだろうか、もう手紙くらい来てもいい筈だけれど、そんなことを思いつつ秋を送り、やがて季節は冬にはいった。