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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
……そのとき庄吉はひどく蒼い顔をして、元気のないようすで客の執持をしていた。おせんは別に気にもとめなかったが、暫く経ってから、養子のはなしは幸太と庄吉の二人のうちということで始まり、結局は幸太にきまったのだと聞いてから、酒宴のときの庄吉の沈んだようすが思いだされてはげしく同情を唆られた。
――庄さんのほうがおとなしくって人がらなのに、杉田屋さんではどうして庄さんをご養子にしなかったんでしょう。おせんはそれが不服でもあるように云ったものだ。
――どっちでもたいした違いはないのさ、と源六は笑いもせずに答えた。杉田屋の養子になったからといってゆくすえ仕合せとはきまらないし、なり損ねたからって一生うだつがあがらないわけではなかろう。運、不運なんというものは死んでみなければ知れないものさ。
元もと温順な庄吉は、それまでと少しも変らず黙ってよく稼いでいた。もう腕も幸太に負けなかったし、仕事に依っては彼のほうが上をゆくものもあった。然しおせんにはそれが幸太と張り合っているように、腕をあげることで意地を立てようとしているようにみえ、いっそう庄吉が孤独な者に思われて哀れだった。