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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
そして自分は花川戸に寄るところがあるからと、おたかは急ぎ足に別れていった。――粉のように細かい雪が舞いだした、人の往き来で賑やかな町筋がにわかに活気立つようにみえ、子供たちは口々に叫び歌い交わしながら、道いっぱいに跳ねたり駆けまわったりし始めた。おせんの背中でも幸太郎がしきりに手足をばたばたさせ、降って来る雪を掴もうとして叫びたてた。
「ゆきこんこいいね、ゆきこんこ、ああたんゆきこんこいいね」
おせんは幸福な気持だった。庄吉が梶平の店を出たということは知らなかったけれど、住込みでよそへいっていた彼が、正月をしに帰って来たという、祝う身寄りもないからと云ったそうだし暫く厄介になった人たちへの懐かしさもあるだろうが、なんといっても近くに自分のいることが最も大きい原因に違いない。自分の近くへ来て、自分のようすを聞いたり見たりしたいのだ、殊によるとすっかり事情がわかって、その話をする積りで来たのかもしれない。――もちろんはっきりそうと信じられる理由はなかった、そういう臆測とは逆なばあいも想像することができる。しかしそれでもいい、どういう意味にせよ彼が自分の近くへ来ることは愛情のつながっている証拠なのだ。