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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
「そんな恥知らずないたずら女は町内にいて貰いたくないもんだ」お勘がなおもこうどなっていた、「――そんな者にいられたんじゃこっちの外聞にもかかわるからね、さっさとどこかへ出てってお呉れよ」
幸太郎は両手でおせんにしがみつき、全身を震わせながら泣きじゃくっていた。おせんはかたく頬を押付け、背中を撫でながら河岸ぞいに歩いていった。そうだ、なんというばかな恥ずかしいまねをしたことだろう、どうもがいたところでお勘を云い伏せられるわけがないではないか、庄吉でさえ疑っているものを、他人がそう信じるのは当然のことではないか。――おまけにあんな大勢の人々のいる前で、この子は自分の子ではないと叫びかけた。誰に信じて貰えもしないことを云って、それが小さな幸太郎の耳に遺ったとしたらどうするか。数え年でではあるがもう四つになる、殊にあんな異常なばあいの記憶はながく消えないものだ、自分が拾われた子などということを覚え、また人からそう云われるとしたら。……おせんは幾たびもぞっと身を震わせ唇を噛みしめた、そして幸太郎を力いっぱい抱きしめ、燃えるような愛と謝罪の気持で頬ずりをした。