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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

呼吸は激しく、躯は火のような熱である。そして両の乳房はどちらもひしゃげて、どす黒い幾すじかの襞になっていた。

「おせんちゃん、あんた見て呉れた」おもんはしゃがれた声でそう云った、「――ようよう家が持てたのよ、あんたに見て貰おうと思って、……これでひと安心だわ、あんたも越して来なさいよ、いっしょに此処で暮そうじゃないの、ねえおせんちゃん、あたしもあんたも、ずいぶん苦労したんだもの、いいかげんにもう楽になってもいい頃よ、ねえ、この家あんたに気にいって」

「ええ気にいったわ」おせんは自分の単衣を出して彼女の上へ掛けてやった、「――とてもいい家だわ、おもんちゃん、でも少しじっとしていてね、あたしいまお医者を呼んで来るから、動かないで待っているのよ」

おせんは幸太郎を負ってとびだした。

三軒たずねて断わられ、四軒めに佐野正からの口添えで、駒形町の和泉杏順という医者が来て呉れた。診断は労咳ということだった。それもひじょうに重くなっているので、当分は絶対安静にしなければならない、話もさせてはならないと云われた。こちらの生活を察したものだろう、もし必要ならお救い小屋へ入れる手配をしてやってよい、そう云って呉れたので、そこへゆけば充分な治療がして貰えるのであろうかと訊いたが、病気がここまで進んではどんな名医でも手のつけようが