轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
ない、あとはただ静かに死ねるようにしてやるばかりだという。それなら自分にとってはたった一人の友達だから、ここで死ぬまでみとってやりたいと思う。こう答えて医者を送り出した。
その月いっぱいおせんは満足に眠れない日を過した。もう高価な薬も、むだだというので、ふりだしのような物を呉れるだけだったから、薬代はさしてかからなかったが、幾らかでも精のつくように卵とか鳥などを与えたいと思うので、毎日買い物をできるだけ詰めても、佐野正への借りが少しずつ殖えていった。
――松造は六七日おきぐらいに来たけれども、おもんの寝ているのを見ると、持って来た物を置いてすぐに帰っていった。あのときあのように云ったにしては、かくべつ機嫌を悪くしたようにもみえず、却って持って来て呉れる物のなかに卵や胡麻や榧の実などが殖えたくらいである。特に榧の実は労咳にいいそうで、日に三粒ずつそのたびに焼いて、熱いうち食うようにと念を押したりした。……医者はいくばくもないように云ったけれども、八月にはいると熱も下り、食欲もついて、眼の色なども活き活きとしてきた。それまで話は禁じられていたし自分でもそれだけの元気はなかったらしいのが、少しずつ口をききはじめ、夜など寝つけないことがあると、静かな歌うような口ぶりでよく昔のことを話したがった。