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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
自分では意識しなかったが、その手紙のおせんに与えた印象は決定的だった、突込んで云えばおせんは顔つきまで変った、庄吉を思うそれまでの感情は、十七になった少女のものでしかなかった、現実と夢とのけじめさえ定かならぬ、ほのかな憧憬に似てあまやかなものだった。然しその手紙を読み遠い見知らぬ土地と、そこでひたむきに稼いでいる彼の姿を想いやったとき、おせんの感情は情熱のかたちをとりだした、十七歳という年齢はもはや成長して達した頂点ではなく、そこからおんなに繋がる始点というべきものとなったのである。
或る日の午後、杉田屋から源六を呼びに使いが来た、そんなことは絶えてなかったし、用事もはっきりしないので、源六はちょっとゆき渋ったが、追っかけ催促があったのでやむなくでかけていった。……それは夕餉のあとだったが、一刻ほどすると赤い顔をして帰った。
「あらおよばれだったんですか」
「なにそうでもないんだが」上へあがるとき源六はふらふらした、「……これはひどく酔った」
「たいそうあがったのね、臭いわ」
「水を貰おうかな」
「床がとってありますから横におなりなさいな」
おせんはお祖父さんを援けて寝かしながら、老人が自分のほうを見ようとしないのに気づいた。