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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
やってみるがいい。こう云ってすすめた。家の表を作り変えて店にし、古河から十五になる小僧もつれて来て呉れた。古い車を一台、籠を五つ、秤だの帳面だの筆矢立など、こまごました物もすべて松造が心配した。荷のほうは千住の問屋に話してあるので、小僧がゆけばその日その日の物を揃えて呉れる、値段も松造との取引をみかえりに元値ということになった。これはのちに問屋の主人がおせんの身の上を聞いてから、さらに好い条件になったのであるが。――心配したほどではなく商売はうまくいった、元の値が値であるのと、初めのうち松造が付いていて思いきり安く売るようにしたため、新店は半月繁昌といわれているに拘らず、客足はずっと続いて離れなかった。近所の人たちもさいしょのうちこそ妙な顔をしていたが、八百屋物は毎日のことであるし、切詰めた生活をしている者には一文でも安いということは、大きいので、ひとり来、ふたり来するうちに、いつかしらいまわりの者はたいがい客になってしまった。その中でお勘だけは別であった、お地蔵さまの縁日のことがあってから、お勘は町内を背負って立つようにおせんの悪口を云いちらしていたが、おせんの店の安いことを聞くとまっ先にやって来たのも彼女であった。