轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
と源六が返辞をするまでにはかなりの間があった、「……じゃいいよ、やっておくから置いてゆきな」
「済まない、恩に衣るよ爺さん」
そしてその声の主は店を出た。おせんがその足音を耳で追うと、それが忍びやかに、けれどすばやくこの勝手口へ近づいて来た。おせんはそこの腰高障子をそっと明けた、庄吉が追われてでもいるような身ぶりですっと寄って来た。血のけのひいた顔に、両の眼が怖いような光を帯びておせんを見た、彼は唇を舐めながら囁くように云った。
「これから柳河岸へいって待っているよ、大事なはなしがあるんだ、おせんちゃん、来て呉れるかい」
「ええ」おせんは夢中で頷いた「……ええいくわ」
「大川端のほうだからね、きっとだよ」
そう念を押すとすぐ庄吉は去っていった。おせんは誰かに見られはしなかったかと、……どうしてそんなことが気になるのかは意識せずに、……横丁の左右を見まわした。向う側にはかもじ屋に女客がいるきりで、貸本屋も糸屋も乾物屋もひっそりとしているし、主婦がおしゃべりでいつも人の絶えない山崎屋という飛脚屋の店も、珍しくがらんとして猫が寝ているばかりだった。障子を閉めたおせんは、笊にあげてある青じそを取って、爼板の上に一枚ずつ重ねて、庖丁をとりあげたまま暫くそこに立ち竦んでいた。