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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

が、よく気をつけて聞くとおせんを哀れがっているのだった。

「可哀そうにな、おせん可哀そうにな」

「わかったわお祖父さん」と、おせんは、祖父に笑ってみせた、「……でも大丈夫よ、お祖父さんはすぐ治るの、いつもお医者さまがそう云うのを聞いているでしょう、そんなに心配することはないわ、これまで休みなしに働いてきたんですもの、湯治でもしている積りでのんきに寝ていらっしゃるがいいわ、あたしちっとも可哀そうでなんかないんだから」

「ああ、おれにはわかってるんだ」聞きとりにくい言葉つきで源六はこう云った、「……おせん、おれにはわかってるんだよ、すっかり眼に見えるようなんだ、可哀そうにな」

云わないで、お祖父さん、おせんはそう叫びたかった、抱きついていっしょにこえかぎり泣きたかった、そうすることができたら幾らか胸が軽くなるだろうに、……けれども泣いてはいけなかった、そんなことをしたら、お祖父さんは気落ちがしてしまって、病気も悪くなるに違いないから。おせんは笑ってみせなければならない、心配そうな顔をしてもいけなかったのだ。

見舞いに来る客も、段だん少なくなり、魚屋の女房のほかは、近所の人たちもあまり顔をみせなくなった。