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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

「そんなにおれが嫌いなのか」幸太は暫く、黙っていたのち、なにか挑みかかるような眼でこっちを見た、「……おれのどこがそんなに気に入らないんだ、おれはおためごかしや恩に衣せる積りでよけいなおせっかいをするんじゃあないぜ、おまえとも爺さんとも幼な馴染だ、ことにおまえとはこんなじぶんから知り合って、おれにとっては……まったく、他人のような気持はしないんだ、そうでなくったって、こんな場合には助け合うのが人情じゃあないか、どうしてそれがいけないんだ、おせんちゃん」

「よくわかっているわ、でも幸さん、あんた覚えていないかしら、お正月あんたが家へ来て帰るとき、表で山崎屋の権二郎さんに会ったでしょう」

「山崎屋の権に、……そうだったかも知れない、だがもうよく覚えていないよ」

「あたしは覚えているわ、そして、一生忘れられないと思うの」おせんはこみあげてくる怒りを押えながらそう云った、「……あのとき権二郎さんは、あんたの顔を見てこう云ってよ、若頭梁いまごろ妾宅のお帰りですかって」

「冗談じゃあない、あんな酔っぱらいの寝言を、そんなまじめに聞く者があるものか」

「それならよそでも聞いてごらんなさい、世間にはもっとひどいことさえ伝わっているのよ、あんたは男だから、そんな噂もみえの一つかも知れないけれど、おんなのあたしには一生の瑾にもなりかね