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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
ないことよ」
「おれはなんにも知らなかった」幸太は頭を垂れ、またながいこと黙っていた、それからこんどはまるで精のぬけたような声で、吃り吃りこう続けた、「……そんな噂は、まったく聞いたこともない。そして、それがおせんちゃんには、そんなに迷惑だったんだな」
「考えてみて頂戴、これまでもそうだったけれど、こんなになったお祖父さんを抱えてやってゆくとすれば、これからはよっぽど身を慎まないかぎり、どんな情けないことを云われるかわからないじゃないの」
「そいつをきれいにする方法はあるんだ、おせんちゃん、おまえさえその気になって呉れれば」
「それはもうはっきりしている筈だわ」
「おれが改めて、おれの口から、たのむと云っても、だめだろうか」幸太の眼は忿りを帯びたように鋭く光った、「……おれは本気なんだ。口がへただからうまく云えないが、もしおせんちゃんが望むなら、おれはこれからどんなにでも」
「あたしにこれ以上いやなことを云わせないで、幸さん、それだけがお願いよ、どうぞおせんを、可哀そうだと思って頂戴」
「おまえを可哀そうだと思えって」とつぜんまったくとつぜん幸太は蒼くなった。