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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

源六はうっとりと眼を細くしながら云った、「……ほんとうに毒でなければ、これから少しずつやってみるかな、なんだか身内にぐっと精がつくようだ」

「お医者さまがそう云うんですもの、それはあがるほうがよくってよ」

「だがなにしろこんなからだで酒を呑むなんぞは、それこそ罰が当るというもんだからな、みんなおまえの苦労になるんだから」

「いやだわ、また同じことを」

「おまえに礼を云うんじゃあない、自分が仕合せだということを云いたいんだ、子にかかる親はざらにあるが、こうして孫にかかれる者は世間にもそうたくさん有るわけじゃあない、然もまだ十八やそこらの娘になにもかもおっかぶせて、こうして気楽に養生ができるということはたいへんなもんなんだ、まったくたいへんなもんなんだ、おれは、そいつが嬉しいんだ」病気からなみだ脆くなっていた源六は、もうぽろぽろと大きな涙をこぼしていた、「……おれはおまえになんにもしてやらなかった。十三や十四から飯を炊かせたり肴を作らせたり、使い走りをさせたりしただけだ、帯ひと筋、いや簪一本買ってやったことがなかった、ところがおまえはむすめの手内職で、おれを医者にもかけ薬も買って呉れる、おれが好きだと思う物は、そう云わなくとも膳へのっけて呉れる、諄いようだが礼を云うんじゃあないぜ、おれは、来年はもう六十九だ、この年