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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
よしそうでないにしても、「御門」という制度は厳しいもので、いちど閉められたらたやすく明く筈はなし、群衆の力ぐらいで毀せるものでもなかった。彼はすばやくみきわめをつけ、けんめいに人波を押し分けて神田川の岸へぬけ、そのまま平右衛門町から大川端へと出て来た。
神田川の落ち口に沿った河岸の角が、かなり広く石置き場になっていた。のちには家が建つようになったが、その頃はまだ河岸が通れるようになっていて、貸舟屋や石屋や材木屋などが、その道を前にして軒を並べていた。もし舟があったら本所へ渡ろうし、無かったにしても、石置き場は広いし水のそばだから、火に追い詰められてもたぶん凌ぎがつくだろう、幸太はそう考えて来たのだった。……けれども、そこはもう荷物と人でいっぱいだった、幸太はちょっと途方にくれたが、遠慮をしていてはだめだと思い、
「病人だから頼みます」
と繰り返し叫びながら、人と人とのあいだを踏み越えるようにして、いちばん河岸に近いところへぬけていった。そこは三方に胸の高さまで石が積んであり、その間にちょうど人が三人ばかりはいれるほどの隙間ができている。
「ここがいいだろう」