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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
そう云って幸太は源六をおろした、「……暫くの辛抱だ、爺さん寒いだろうが、がまんして呉んな」
「それより幸さん、おまえ家へ帰らなくちゃあいけまい」
「なあに家はいいんだ」幸太は源六を積んである石の間へそっと坐らせた、「……家はすっかり片付けて来たし、親たちは職人といっしょに立退いたんだ、おせんちゃんその包をこっちへ貸しな、そいつを背中へ当てて置けば爺さんが楽だろう」
「済みません、あたしがしますから」
おせんは背負って来た包をおろし、お祖父さんの後ろへ、倚り掛れるように置いて、自分もそこへ腰をおろした。
火のようすを見て来るといって、幸太は通りのほうへ出ていった。おせんはひきとめたかった、こんな混雑のなかで、もしはぐれでもしたらどうしようと思ったから。けれども呼びかけることはできなかった、幸太が火を見にゆくというのは口実で、ほんとうはおせんのそばにいることを憚った。あのときの約束を守ろうとしているのだということがわかったからである。おせんは咎められるような気持で、お祖父さんにひき添いながら身のまわりを眺めやった。……積んである石の上も下も、大きな荷包と人でいっぱいだった、たいていの者が子供づれで、なかには背負ったり抱えたりで五人もの子をつれた女房がいた。