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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
幸太は泣くような声でこう云った、「……どんな事だってきりというものがあるからな、おせんちゃん、これまでのことは忘れて呉んな、これまでの詫びにおまえだけはどんなことをしても助けてみせる、いいか、生きるんだぜ、諦めちゃあいけない、石にかじりついても生きる気持になるんだ、わかったか」
おせんは黙っていた、顔もあげなかった。幸太は立って再び水を汲んでは掛けはじめた。然し湯沸しなどでは間に合わなくなってきた。彼は蒲団を水に浸しておせんの上から冠せ、手桶かなにかないかと捜してみた、そのときはじめて、そのあたりいちめん人間の姿がひとりもなく、荷という荷が赤い火を巻きだしているのに気がついた、ついさっきまで犇めいていた人たちが、かき消したように見えなくなり、有ゆる荷物が生き物のように赤い舌を吐いていた。眼のくらむような明るさのなかで、それは悪夢のように怖ろしい景色だった。
彼は湯沸しを投げだした。そして積んである石材を抱えあげ、石垣に添って河の中へ落し入れた、一尺角に長さ三尺あまりの大谷石だった、殆んど重さを感ずる暇もなく、凡そ十五六も同じ場所へ沈めた。それから石垣に捉まって水の中へはいってみた、石は偶然にも、ひとところに重なっていたが、満潮の水は彼の胸まで浸した、幸太はすぐに岸へ上り更に八つばかり沈めて、自分でいちど