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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

手足はもちろん骨まで氷りそうな風に曝され、頭から白く粉雪に包まれた人々が、浅草橋の北詰から茅場町あたりまで列をつくっていた。傘をさしたり合羽を着たりしているのはごく僅かで、たいていの者が風呂敷やぼろや蓆をかむっていた。男も女も、老人も子供も、みんな肩をすくめ身を縮めて、おさえつけられるように前跼みになって、ほんの少しずつ、それこそ飽き飽きするほどのろのろと、列といっしょに動いている。誰もなにも云わなかった、素足のままふところ手をして瘧にかかったかのようにがたがた震えている者、きみの悪いほど、白い硬ばった顔でときどきびくんと発条じかけのように首だけ後ろへ振向ける者、むきだしの頭から肩背へ雪まみれになったまま、払いおとす力もないかのようにじっとうなだれている老婆、これらの群のあいだから赤児の弱よわしい泣きごえが聞える。前のほうでも後ろのほうでも、もう泣き疲れて喘ぐように喉をぜいぜいさせるだけのものもある。しかし親たちのあやす声は聞えない、ひょうひょうと吹きたける風の音を縫って、その赤児の泣くこえだけが、列をつくっている人々ぜんたいの嘆きを表象するかのように、途絶えたり高くなったりしながらいつまでも続いていた。