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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
子供の世話をするひまひまに、炊事や洗濯くらいは出来るようになり、灯のそばで縫いつくろいなどしていると、すっかりおちついて顔色も冴えてみえる。
「あら、おせんちゃんはきれいなんだね、今夜はまるで人が違ったようじゃないの」お常がそんな風に眼をみはることもあった、「――それだけよくなったんだね、自分でそんな気持がしやあしないかえ」
「ええ頭が軽くなったような気がするわ、なんとなくすうっとしてなにもかも思いだせそうになるの、ひょいと誰かの顔がみえるようなこともあるんだけれど」
「あせらないがいいよ、そうやってひととおりなにかが出来るようになったんだから、もう暫く暢気にしているのさ、そのうち本当におちついてくればすっかりわかるようになるからね」
「おばさん本所の牡丹屋敷って知ってて」
「四つ目の牡丹屋敷かい、あたしはいったことはないけど、それがどうかしたのかえ」
「なんだかそのことがあたまにあるの」おせんは遠くを見るような眼をした、「――誰かと見にゆく筈だったのか、それとも見て来たのか、そこがはっきりしないんだけれど、それからどこかのきれいな菊畑、……いろんなことがここのところへ出かかっているんだけれど、捉まえようとするとすうっと消えてしまうのよ」