轻松读懂日语经典作品
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页
しかし、この封書には、ちやんと居どころがしるしてある。――広島県宇品海岸通り。さて、それだけで番地もなければ、止宿先の名前もない。これで返事が届くかしらと思いながら封を切る。
ごあいさつもせずにおん地を去りましたことを申しわけなく存じます。なにから申しあげてよろしいやら、その後お宅さまでは皆さまお変りもいらつしやいませんか。ご主人はもうお役目がおすみになりましたかしら。一日も早くお家族おそろいで新しい団らんのご生活におはいり遊ばすことを祈つております。
わたくしは、教師の職をすて、まともな生活のあてもなく、放浪の旅に出ました。お話をすれば長くなりますけれども、これも止むにやまれぬ女心の、たゞひとすじの道をと思いつめた結果でございます。待つということほどなやみのますものはございません。近づけるものなら、ひと足でもこちらから近づいていきたいのです。道はいくら遠くても、いくらけわしくても、それは忍んで忍べないことはないと思いますの。音さたのまるでないものを、どうして待つ気になれましよう。それは待つことにはならず、見失うことです。とりにがすことです。たゞ、海のかなたに向つて、その名前を呼びつゞけるということだけで、わたくしのいのちは生きていられるような気がいたします。